鸟类生态被害対策.pdf

鳥類の生態およびその被害対策 鳥獣対策指導員養成研修 資料 於 島根県隠岐郡西ノ島町 島前集合庁舎 2003（H15）年 10 月 2 日 独立行政法人 農業技術研究機構 中央農業総合研究センター 耕地環境部 鳥獣害研究室 研究員 吉田保志子 ＜目次＞ 第１部 鳥害の実態と有害鳥類の生態 １－１．鳥害の実態･･･････････････････････････････････････ 2 １－２．加害鳥類･････････････････････････････････････････ 2 １－３．鳥の五感･････････････････････････････････････････ 5 １－４．鳥の学習能力･････････････････････････････････････ 6 １－５．鳥の食生活･･･････････････････････････････････････ 6 １－６．鳥の移動と渡り･･･････････････････････････････････ 8 １－７．鳥の数･･･････････････････････････････････････････ 8 第２部 鳥害防止技術の現状と展望 ２－１．鳥害対策がなぜ難しいか･･･････････････････････････ 9 ２－２．鳥害に関してよくある誤解･････････････････････････ 9 ２－３．鳥害防止技術･････････････････････････････････････10 ２－４．結論･････････････････････････････････････････････15 ２－５．研究開発の展望･･･････････････････････････････････16 ＜付録＞ ? 『カラス対策について』･･･････････････････････････････････17 ＜別添資料＞ ? 鳥種別生態と防除の概要（カモ類、ハト類、ヒヨドリ、スズメ、ムクドリ、カラス類） ? 研究成果情報『殺虫剤等の鳥用忌避剤としての有効性』 ? カラーチラシ『鳥害を防ぐにはまず相手を知ろう』 ＜参考文献＞ 『鳥獣害対策の手引き』江口祐輔・三浦慎悟・藤岡正博（編）日本植物防疫協会（2002 年） 『鳥害の防ぎ方』藤岡正博・中村和雄（著）家の光協会（2000 年） ※その他については鳥獣害研究室ホームページを参照のこと。

http://narc.naro.affrc.go.jp/kouchi/chougai/index.html 1第１部 鳥害の実態と有害鳥類の生態 １－１．鳥害の実態 農作物の鳥害に関する全国的な統計は、市町村等の報告を都道府県がとりまとめ、それを農水省植物防疫課がまとめている聞き取り調査によるものしかないまた、継続的に実施されているのは平成２年度以降 これによると、全般的に面積は減少傾向、被害量はおおむね横ばいである被害面積、被害量ともにもっとも多いのがカラス類であるスズメは、被害面積では多いが、被害量はずっと少ないヒヨドリは年次変動が大きく、これは西南日本まで南下する個体数が年により異なるためではないかと考えられる（図 1－次ページ） １－２．加害鳥類 日本では 500 種をこえる鳥類が記録され、普通に生息する種に限っても 200 種以上いるが、そのなかで農作物に被害を与える鳥類は 20 種程度 （表 1－p.4） 種によって食性が異なるため、加害対象作物も異なる加害鳥類のほとんどはもともと人里にすむ鳥であり、群れを作って広い範囲を飛び回るものが多い一方、スズメも夏期には昆虫を多く食べるように、鳥には昆虫の捕食者としての役割もある。

日本では鳥は「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」 （鳥獣保護法）によって基本的に保護されており、害鳥であっても捕獲には許可が必要である致死性薬剤も使用できない 2鳥害による農作物被害面積の推移020406080100120140160495153555759616324681012千ヘクタールスズメカラスカモムクドリヒヨドリハトキジサギ鳥害による農作物被害量の推移01020304050605759616324681012千トンスズメカラスカモムクドリヒヨドリハトキジサギ図１ 鳥害による農作物被害面積・被害量の推移 農水省植物防疫課資料による 3表 1 日本における農業害鳥 農作物被害1)被害統計（H13）3)種類 地域 体重 果樹野菜マメ水稲ムギ飼料狩猟2)面積(ha)量(t) 備考 カモ類 全国 1kg 前後 ○ ◎ ○ 可 9,0002,300野菜・ムギ(葉)・海苔は主にヒドリ ガモ，水稲は主にカルガモによる； 狩猟不可の種あり ハクチョウ・ ガン類 北日本 2～12kg ○○○不可分布は局所的；近年増加傾向 サギ類 全国 500g 前後 ○ 不可 400100ゴイサギのみ狩猟鳥 キジ 全国 800g 前後 ○ ○ ○ ○ 可 400400狩猟鳥として各地で放鳥している キジバト 全国 240g ◎ ◎ ○ ◎ ◎ 可 ドバト 全国350g◎◎○◎◎不可8,1007,300被害統計ではハトとしていっしょ になっている；種子や穀実を食害 ウソ g 全国30○不可花芽を食害 ムクドリ 全国 80g ◎ 可 0005,13,0 0近畿から北に多い ヒヨドリ 全国 70g ◎ ◎ 可 0005,06,2 0カンキツの被害が多い シロガシラ 沖縄本島 ○ ○ 不可カワラヒワ 全国 25g ○不可スズメ類 全国 25g ◎ ◎ 可 21,6004,200近年被害は減少傾向 オナガ 本州中北部 70g ○ 不可分布は局所的 カラス類 全国 600g 前後◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 可 39,00044,700 1)◎＝被害が多い，○＝被害がある。

2)「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」で狩猟鳥に指定されているものに「可」 ，指定されていないもの（保護鳥）に「不可」 3)農水省植物防疫課の統計による 4１－３．鳥の五感 鳥の五感は視覚中心で、彼らの感知している世界は、我々ヒトにとって犬や牛が感知している世界よりもずっと理解しやすいただし、調べられている鳥はウズラやニワトリ、ハトといった家禽類がほとんどで、野生鳥類についての知見は限られている （１）視覚 おおまかに言って鳥の視覚はヒトと同程度かやや優れていると思ってよい視力にはいくつかの要素がある ◆見える色の範囲―ヒトは赤、青、緑の３原色を感知しているが、多くの鳥は近紫外線（ないしは紫外線）まで含む範囲を４原色としてとらえている ◆ものを細かく見る能力（分解能）―網膜上にある感覚細胞の数で決まる鳥の方が感覚細胞の密度が高いが、小鳥の目は小さいので分解能はヒトよりも劣る大きな目を持つフクロウ類やタカ類は優れた分解能をもつ ◆距離感―距離を正確にとらえるには両目で同じ方を向く必要があり、視野が狭くなる小鳥やガンカモ類などは視野の広さを優先し、猛禽類などは距離の把握を優先している（図 2） 。

図 2 鳥の視野と立体視（距離感）の関係 ◆その他―鳥は自身が高速で飛ぶので、優れた動体視力を有していると考えられるまた、ごく近距離から無限遠までピントをすばやく合わせることができる夜行性の鳥を除いて暗がりでの鳥の視力はよくないが、ヒトと同程度であって、いわゆる「鳥目」ではない （２）聴覚 鳥は音を集める部分（イヌやウサギのいわゆる「耳」にあたる部分）を持たず、内部構造も哺乳類より単純なので、音には意外ににぶく、ヒトよりもやや劣る（図 3） ヒトに聞こえない 2 万ヘルツ以上の音を超音波というが、鳥に超音波は聞こえない 5図 3 鳥の可聴範囲と聴覚感度 （３）味覚・嗅覚 味覚を感じる細胞（味蕾）の数は、ニワトリやハトでは数十個と、ヒトの約一万個よりはるかに少ないただし、果実食のヒヨドリやムクドリは糖度（甘さ）や毒物に敏感と考えられるが、調べられていない 鳥の嗅覚は一般にヒト同様にたいして鋭くなく、哺乳類のように種内のコミュニケーションに使われることもない （４）その他 ハトや長距離の渡りをする小鳥が地磁気を感知できることが知られている １－４ 鳥の学習能力 鳥害防除が難しい理由の一つは、どんな追い払い装置を設置しても鳥が慣れてしまうことにある。

昆虫では、特定の色の光やフェロモン剤といった、本能的な刺激を使った防除があるが、鳥の場合には状況判断と記憶力によってその装置がこけおどしだということを数日のうちに学習してしまう鳥が本能的に避け続ける色や音といったものは存在しない 鳥の脳は、飛ぶという制約にもかかわらず、同サイズの哺乳類と同程度、爬虫類と比べると 6～11 倍も大きい鳥の脳は、いわば汎用パソコンで、データやプログラムを追加していくことで機能する例えば、鳥は食べ物も天敵も一つ一つ学習する １－５．鳥の食生活 哺乳類に比べて、 鳥の食べ物は高栄養な物に偏っている （表 2－次ページ） 昆虫と果実、 種子、小型動物が主な餌で、植物の葉のようなカロリーの低い餌を食べる鳥は少ないただし、大形の鳥であるガンやハクチョウは草の葉を食べるので、水田の落ち籾がなくなるとムギの葉に食害を起こすことがある 鳥の食べ物のもう一つの特徴は、昆虫と違って食べ物の幅が広いことである例えば、稲の害6鳥であるスズメは、麦などの他の穀物や雑草種子はもちろん、昆虫などもかなり食べる（図 4） カラス類やヒヨドリ、ムクドリ、カモ類なども同じであるしたがって、うかつに鳥を駆除すると害虫の増加などの思わぬ副次効果に見舞われることがある。

表 2 食べ物の種類別に数えた鳥のグループ数（科の数） 食べ物の種類 主食とする 日常的に食べる たまに食べる 合計 葉や芽 2 13 13 28 種子 4 31 24 59 果実 19 34 21 74 花の蜜 3 5 7 16 昆虫類 50 58 32 140 その他の無脊椎動物 8 20 36 64 脊椎動物 4 14 32 50 水生動物 20 10 11 41 腐肉 1 4 6 11 なんでも - - - 56 ※同一科内にいろんなタイプの鳥がいる場合には複数回カウントされている ※Gill (1989) Ornithology の Table 1-1 を改変 図 4 スズメの餌内容の季節変化 鳥は歯をもたないので、食べ物は筋胃（すなぎも）ですりつぶす種子を食べる鳥は丈夫な筋胃を持っているが、魚や肉、果実しか食べない鳥ではほとんど退化している昆虫を食べる鳥の筋胃はその中間程度である季節によって食べ物を変える鳥では、筋胃の構造も変わる 鳥は消化しやすい成分だけを利用するので、大きさのわりにはたくさん食べる体重 600ｇほどのカラスが毎日 150～200ｇの餌を食べる。

体重 20g 強のスズメも 1 日 5g の餌を食べるが、体が小さいため絶対量としては多くない （添付資料のカラー刷りチラシにはスズメ、ヒヨドリ、ハト等の摂食量を掲載） 7１－６．鳥の移動と渡り 鳥は、多かれ少なかれ季節によって住み場所を変えるそのうち比較的長距離の規則的な季節移動を渡りという 渡りのルートを決めるのに鳥は複数の鍵を利用するふだんは有視界飛行をしており、渡りのときには太陽コンパスや星コンパスも使う地磁気を使える鳥もいるただし、だからといって磁石で鳥を追い払えるわけではない地磁気は地球の南北に走る巨大な磁界であるそれに対して、いくら強力な磁石でも数十センチも離れるとほとんど磁界の外になってしまうので、広い範囲で地磁気を乱すのはそもそも無理であり、実験でも効果はなかった 主な農業害。